《プロローグ》
みなさんコンニチワ。からだは大きいけど気は小さい葬祭ディレクターの横川です。
さて、そもそも葬祭ディレクターって何?と思っている方も多いことでしょう。ここではその葬祭ディレクターについての「表」と「裏」のお話を致します。葬祭従事者としての実務及び知識において一定のレベルを保持しているかどうかを審査し認定するのがこの制度なんですが、試験範囲は究めて広く、司会・幕張の実務から宗教儀礼・相続・遺言・民法・心理学など多方面にわたっています。
いざ、試験にチャレンジしようと奮起したものの、参考書も電話帳なみの厚さ。30歳を超えた脳には少しツライ…しかし業務のあいまに時間を見つけては、社員同士で問題をだしあったりして日々勉強を続けてきました。
試験内容は、というと・・・大きくわけて学科試験と実技試験に分けられます。実技はさらに「司会」「幕張」「交渉実演」の3つに分けられます。「幕張」では下の図のように所定の机に画鋲を使ってヒダ幕を作っていく作業。その制限時 間は7分。はじめは「こんなの時間内にできるはずない」と弱気になっていたんですが、毎日練習を重ねていくとアラ不思議、画鋲使いにも慣れて時間内にこなせるようになりました。「交渉実演」は試験官がお客さんになって様々な質問を浴びさせてきます。それをひとつひとつ丁寧に、実際にお客さんに接しているように答える試験。単純にイエス、ノーだけじゃダメ。なぜ・どのように・いつ・どこでっといったような明確な答弁をしないと点数がかせげません。学科試験はマークシートで選択肢だが、これはしっかりと知識をもってないと答えられない。一番勉強に時間を費やしました。
《試験・幕張》
試験当日、緊張して都内の会場に向かうと黒い背広を着た人がウジャウジャいて、これが全員葬儀屋か…と思うとちょっと異様な雰囲気。そして試験開始。受験者はグループごとに分けられ、それぞれの会場に向う。私ははじめは「幕張」の試験だった。ここでつまずいたら全部に影響する・・・と思い気合をいれていく。時期は真夏。ネクタイをとりワイシャツも脱いで、肩には汗をとるタオルの臨戦体勢。「ヂリリリ・・・」と鳴るベルと同時に幕張を開始。布のこすれ合う音と足音だけが会場内に響き渡る。練習では1分以上の時間を残して完成させている。「慌てず、休まず・・・」自分に言い聞かせながら黙々と作業を進めていく。
そしてまもなく完成っていうときに、ハプニングが起こった。机の裏側をかくす幕の長さが足りない!(*O*;)やばいっと思うも不思議にも気持ちは落ち着いていた。すぐさま机の脇に余ってぶらさがっていた布を切り取って張り、何とかカタチをとりつくれたところで時間終了。練習の成果1分以上の時間の「保険」のおかげで滑り込みセーフってとこか。とりあえず試験官が廻って審査するまでその場で待っていると、隣のブースの受験者が何を勘違いしたのか、さっき己 が作った幕を剥がし片付け始めているではないか。「おいおい、まだ審査は済んでないぞ・・・」と思っているところへ審査官が到着。「あっ何をやっているの!?」と言われ、ようやく事の重大さに気付いたその受験者。机には先ほど張った美しいヒダ幕は無く、試験前の状態に元通りのまま。見る見る顔は青ざめて、「さっき終了と言われたから、終りかと思って片付け始めちゃったんです・・・」と言い訳しつつうろたえる。完成時は私より彼のほうがヒダ幕が綺麗に仕上げっていた。しかし結果がこうなってしまうとは皮肉なものである。結局そのドタバタで隣の私の審査は一瞥のうえアッサリ済まされてしまった。その後の彼の試験結果はどうなってしまったのか、定かではない。
《試験・司会》
「実技試験で一番引っかかるのが司会だ」とは言われていた。しかし落ち着いてやればだいじょうぶだろうと思って臨んだが、甘かった。
名前を呼ばれてブースに向うと、小さい机を前に2人の審査官が座っていた。その真向かいに座って試験に臨むのだが、隣のブースの目隠しのため周囲はコの字型に仕切られており、刑事ドラマの取り 調べ室のようだ。実際の葬式の現場で司会をやるのとはまったく雰囲気が違いとまどってしまう。また「ヂリリリ・・・」というベルが鳴って試験開始。立ち上がって司会を始めるのだが、例題は社葬をイメージしたもので、会社名、役職、葬儀委員長、弔事者、指名焼香者の難しい名前がズラズラ並ぶ。しかもたった二人の試験官の前なのに実に緊張する。普段は何百人の前で司会しているのに何故・・・っと思っているうちに「葬儀委員長」の名前と「弔事者」の名前を入れ替えて言ってしまった!(*O*;)やばい・・・一瞬司会が止まる。試験官の顔をチラッと見ると二人とも採点表を見ていて表情を伺うことはできない。・・・やってしまったものはしょうがない、とそのまま司会を続行。時間内に終了して着席するが、先ほどのミスを悔やんで落ち込む。
結局、言われたとおり、司会でつまづいてしまった。失点が合格ラインを大きく下げないけことを祈るしかない。
《試験・交渉実演》
一番の難関と思っていた交渉実演。たとえばこんな質問がでたら、こう答えなければならない。
| 試験官 |
『母の火葬許可書はA市からもらっているが、A市でないこのB市で母の遺体を火葬することになると、もう一度もらい直さないといけないのでしょうか』 |
| 答え |
『死亡の届出は、本籍地・居住地・死亡した土地、の市区町村で行うことができます。そして死亡届を受理した市区町村が、火葬・埋葬許可書を発行しますが、この火葬・埋葬許可書があれば、全国どこの地であっても火葬・埋葬することができます。ただし、死亡届を提出した市区町村とは別の土地で火葬する場合は、願書が必要となる場合もありますのでご注意ください』・・・こんな問答を4問繰り返す。 |
先の司会の試験でつまずきヘコんでいたが、交渉実演の試験が始ると不思議にも落ち着きシャキッとなった。この「取り調べ室」の雰囲気にも慣れたし、イスに座って話せることが落ち着きを取り戻すとことに繋がったのかもしれない。試験官のだす質問にも、相手の目を見ながらゆっくりと、我ながら明確に細部まで答えることができた。ほとんど100点満点に近いデキだったような気がする。先程の司会のミスが胸のスミに気につつも、「これでなんとか穴埋めできたかな」と安堵しつつ、実技の試験は全て終了した。
《エピローグ》
続く学科試験も90%に近いデキで済ませることができ、全ての試験は終了した。結果は約2ケ月後、個人の自宅まで郵送によって通知されるという。司会でのミスが気になって、「やっぱりダメかな」「いや、何とか合格ラインはいっただろう」という悶々とする日々が続く。どっちでもいいから早く結果を教えてくれないと気分が悪い。しかし日用の雑務に追われて、次第に試験のことを忘れかけたころ通知書が届いた。結果は合格。忘れていた宝くじが当選していたような気分だ。何はともあれ、無事1級葬祭ディレクターになれることができた。しかし葬祭ディレクターとしての試練はこれで終りではない。合格証書とともに届いた一通の葉書にこんな言葉が記されていた。『今後より一層研鑚を積まれ知識・技能の向上を図り、「葬祭ディレクター」の称号にふさわしい人格識見を更に研かされんことを切にお願いする』・・・そう、葬祭ディレクターとして認定された者として、認定がゴールではなく、これからがスタートなのだ。私は受け取った合格証書を手にもって、業界の社会的地位の向上と信頼を確立するために努力していくことを誓うのであった。 |